新生活、1人暮らし。食事も掃除も睡眠さえも文字通り自分次第になるが、ただ親元を離れる程度では自立も自律も難しい。1人で暮らすのが少しうまくなったことだけが、筆者の大学最初の1年間の糧だった。
「四月、大学生活がはじまる。もったいつけた前口上があるわけでも、ここからが大学生という明確な線が引かれているわけでもない。ただ、気づけば僕は大学一年生になっていた」
本学法学部を卒業した作家である伊坂幸太郎氏の著作『砂漠』冒頭の一節だ。主人公・北村の気質しかり、ほとんどモラトリアムを延長するためだけに進学させてもらった筆者には痛烈な代弁だが、これに対する「非難」はなされない。作中でさまざまな価値基準が提示される中で、キャラクターたちが適度な距離感をもって接しているのが心地よい。多様性の一つの形が提示されるようで、懐かしくうらやましく思う。(小平柊一朗)